2024.09.16
コアマモ植え付け体験会
海と地球の科学技術コンサルタント
2022.05.19
当社では千葉大学・真菌医学研究センターの山口正視先生が開発されたサンドイッチ凍結装置の製造・販売をしています。本装置は、生物試料の電子顕微鏡観察をするにあたって、試料を急速凍結する際に用いられます。熱伝導性の高い2枚の銅板に薄い試料をはさんで(サンドイッチして)、液体プロパンに素早く投入することにより、試料を1秒間に1万度という温度勾配で急速に冷却させ、氷晶のないガラス状凍結を得ることができます。サンドイッチ凍結法では、これまで、生きた酵母、真菌、細菌について、高解像度かつ自然な微細構造が観察されてきましたが、最近では、グルタルアルデヒド固定した培養細胞、動物細胞、ヒト組織においても、微細構造の保持に優れて有効であることがわかってきました。山口先生はこの手法を使った研究でたくさんの論文を発表されており、最近発表された論文(ビデオジャーナル)では、以下のサイトにて、本手法の映像を見ることが可能です。
https://www.jove.com/t/62431/rapid-freezing-using-sandwich-freezing-device-for-good
電子顕微鏡写真(上段左からインフルエンザウイルス、大腸菌、酵母、
下段左から培養細胞とその拡大像、マウス膵臓)
今日は本装置に興味を持っていただき、当社のフリーアクセスにお電話をくださった2名の方を対象に先生が講師を務める講習会を開催してくださいました。1名の方は、主に藻類の観察をされていますが、従来の化学固定法では構造がきれいに見えないことがあるため、サンドイッチ凍結法にトライしてみたいそうです。また、もう1名の方は、これまで材料などの観察の経験をお持ちで、今後生物試料の観察もしてみたいとのことでした。講習会は2日間で構成されており、本ブログでは主に1日目を中心にお伝えいたします。
電子顕微鏡(左)や試料の準備(右)について説明を聞く様子
始めに装置の準備をします。まずはサンドイッチ凍結装置の本体に液体窒素を入れ、装置全体をよく冷やします。液体窒素を入れた直後は、ステージ演出のような白煙がもうもうと広がります。次はよく換気した状態でプロパンガスをゆっくりと入れます。プロパンが入る容器は液体窒素に浸かっており、容器がよく冷えているためプロパンガスは液体になり、やがて固体になります。
左:装置に液体窒素を入れたところ、右:プロパンを入れる様子
本体のほかに、作業バスにも液体窒素を入れます。作業バスは試料を急速凍結した後、銅板を液体窒素の中で剥がすために使われます。この作業は実体顕微鏡で銅板を見ながら行うため、実体顕微鏡も準備します。写真では少し見にくいですが、本体のプロパンが入っている部分に黒いドライバーのような棒を入れています。これは試料が入る部分までプロパンが固体になるのを防ぐために入れてあり、試料を突き刺す直前に取り外します。
左手前から作業バス、サンドイッチ凍結装置本体、実体顕微鏡
いよいよ試料の準備です。使用する銅板は直径が3mmと小さく、実体顕微鏡で見ながら、マイクロピペットでごく少量の試料を1枚の銅板にのせ、もう1枚の銅板を試料にかぶせます。銅板にのせた試料が乾かないよう、この作業はできるだけすばやく行う必要があります。また、このとき銅板をぴったり重ねてしまうと、後ではがしにくいため、銅板を少しずらして重ねるのがコツです。
銅板に試料をのせる様子、銅板ではさんだあと奥に見えるピンセットでプロパンに突き刺す
試料を銅板ではさんだら、それをピンセットでつまみ、サンドイッチ凍結装置のアームに取り付けます。次にアームを回しプロパン容器の真上にピンセットがきたら、すぐにボタンを押し、ピンセットをプロパンに突き刺します。この手順は1~2秒で行われます。本ブログの最初で紹介したビデオジャーナルでは先生の鮮やかな作業が見られますので、ぜひご覧ください。
ピンセットを装置に取り付け液体プロパンの中に突き刺す様子(左→中央→右の順)
試料をプロパンに突き刺したら10秒程度待って、銅板を作業バスの液体窒素の中に移します。2枚の銅板をはがしたら、それらをオスミウム・アセトンの入った固定ビンに移します。固定ビンも作業バスの液体窒素の中に入れておき、作業終了後は-80度の冷凍庫に入れます。
銅板をはがす様子
今回参加されたお二人は、実際に手順を見ることができたほか、これまで電子顕微鏡で撮影した画像などを見ながら、先生といろいろな話や意見交換もできたため、とても有意義な時間となったようです。本装置や手法、講習会に興味のある方はぜひ当社にご連絡いただけますと幸いです。